Archive: 3月 2014

作曲

「創作における3つの心の拠り所」について

どうもUTworksの和丸です。
UTworksの大きなポイントの一つに関連している、「創作やコンテンツを媒介にした居場所」について、今僕が思っていることを纏めておくついでに再確認してみたいと思って筆を取っております。

「創作という居場所」なんて言いますけどね、創作=居場所っていうわけじゃないですよね。だって創作って場所じゃないですから。行為ですからね。でも別に間違ってるってわけでもなくて、つまりこの居場所という言葉は比喩なんですね。いくつかの「心の拠り所」の体現としての。

自己を確認する?

まずですね、僕は創作行為を拠り所にしてるなー、って思うことがあるんです。
中二病真っ盛りのころ、小説や詩をかくサイトをgeocitiesで立ち上げて、クラスの友人たちに見てもらったりしていました。あの頃、わけもなく辛くて、よくわかんない無能感に苛まされていた僕にとって、小説をかいたり、詩をかいたりして誰かにみてもらうことは、自分が「何者か」になれたような気がしていたのです。没個性でない、オリジナルである、これが僕自身だ、と思える、ほとんど唯一の行為がそれでした。

よく独り善がりな作品をオナニー作品なんていいますよね。オナニーって素晴らしいと思うんですよね。wikiには

「心理学の見地から、オナニーは自我の形成に重要な役割を果たすとも言われている[要出典]。自らの指を汚しながら人間が人間であることを確認する行為である。」

なんて書かれてますけど、そういう意味なら自分が自分であることを確認する上記の創作行為はオナニーを超えたオナニーだと思うんです。

いや、いきなり直接的な単語を連呼してしまって申し訳ないです。何いってんだこいつって思った人、正常です。わかるわかるぅってなった方は友達になろうぜ。いやそれは嫌かな。なんて。

つまりですね、創作行為には自己を確認する能力があると思うんです。この要素がですね、自己承認の一助となって、心の拠り所になる。これが一つ目の創作行為における居場所だと思います。次に2つ目の居場所を紹介します。2つ目の居場所はコミュニティです。

チームをつくること?

ある程度大きな作品や、質の良い作品をつくろうとすると、一人では限界があることがあります。そうすると、チームを組んで一つの目的、作品の完成に向けて走りだすことになるかと思います。これって、すごく明確でわかりやすいコミュニティだと思いませんか? もちろん、色々な人の個性がぶつかるとチームでの創作は途端に難しくなりますが……。

僕は良いチームの条件として、ビジョンを強く共有しているかどうかという項目があると思ってます。ビジョンっていうのは目標だったり行く末だったり、なんですが。単なる共同体(クラスメイトとか会社の同僚とか)よりかは、この「作品の完成」という目標はシンプルでわかりやすく、かつ測定可能であるビジョンであると僕は思います。あ、測定可能って大事なんですよ。売上をのばす!とかって目標はよくわかんないじゃないですか。だから何%伸ばす!ってなってますけどそれって必然性はどれぐらいあるのかな、って思います。

話がそれましたが、そうそう、つまるところ、作品を創るっていう行為にはある程度質の良い共同体が生まれる余地があるということ。共同体に属する欲求って結構大きくて、マズローの基本的欲求でも3番目ぐらいにでてくるんですよ。この欲が満たされるのはでかい。僕は創作における2つ目の拠り所は、コミュニティの形成だと思います。これも心の拠り所ですね。次で僕の考える創作における居場所は最後です。最後のキーワードはコンテンツです。今まで創作者の立場で見ていましたが、今度は鑑賞者の立場でみるんです。

コンテンツにおける「場」の形成?

コンテンツにおける心の拠り所って言われるとちょっとむずかしいんですが、これは本当にシンプルなことなんです。改めて言わなくてもいいぐらい。好きな音楽を聞いたりしてると、気持ちが楽になったり、感動したり、明日も頑張れるかもなぁって思ったりしませんか? コンテンツにおける心の拠り所の鍵は結局そこだと思います。好きな作品を鑑賞することっていうのは、作者との対話だったり、己の中での追体験だったり、その作品の「場」に導かれたりすること(ライブハウスで演奏を聞くなど)だと思ってるんですが、こういった心の動きはですね、幸せだってことなんだと思うんですよ。心の拠り所になるのに十分だと思います。うまく言葉にできてないのですが……w

しかもしかも、しかもですよ。好きな作品で誰かとつながるってこと、ありますよね。上記にも書きましたが、作品って場を創るんですよ。ライブイベントとか結構わかりやすいですけど同じコンテンツを目的にして一同に人があつまる。これもすごく分かりやすくて、一体感のともなったコミュニティであると思うんです。ニコニコ動画でも一つの動画というコンテンツを目的に、あたかも人があつまってるようなコメントシステムですよね。あれ素晴らしいですよね。
という感じで、コンテンツは自分の中にも、その外にも心の拠り所を作ってくれるわけです。まあその鍵は作品の鑑賞なのでひとつに纏めてコンテンツの心の拠り所、とします。

まとめ

まとめると、創作行為には心の拠り所を創る作用があって、作品の創作者としての自己充足感やコミュニティ、作品の鑑賞者としての自己充足感やコミュニティがあるよ。っていう記事でした。

最後に

色々かきましたが、創作って、楽しくて幸せな人生送るのに効果的なんじゃないかって思うわけなんですよね。それだけなんです。

  • Author:小鳩和丸
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miku

UTworks的文芸劇場「五月少女」

今回はブログ記事ではなく、文芸です。作品です。まさかこんなところで公開するなんて思いもしませんでした、西市灯(さいちとう)ですはじめまして。
誰、とお思いの方。無理もありません。だって私、UTworksじゃないですし!

私事ですが、以前、millstonesさんの「五月少女」というボカロ曲に触発されて短編小説を書いたのですが、諸事情によりお蔵入りとなっていたんです。
それを今回、和丸さんにお声をかけていただきまして。
どうやら友人の織田檸檬さん経由でこの小説の存在を知られていて、しかも大変気に入っているらしく(ありがとうございます!)、お蔵入りはもったいないという話になったようです。
それで、日の当たらない場所でほこりをかぶっていたこの二次創作小説をUTHPに載せちゃおう、ということになったらしいです。はい。
部外者の私の小説をブログ記事として載せるのは申し訳ない気持ちで一杯ですが、折角の機会ですし再掲載する運びと相成りました。
稚拙な文章でお恥ずかしい限りですが、楽しんでってください。

それでは失礼いたします。

※これは二次創作です。
※画像はイメージです。まままさんのミクさんを使用しております。
***

「五月少女」
作:西市灯

 最近ふと嫌な気持ちになることがある。
「はぁ……」
 例えばこうやってため息をついて、空を見上げるとする。
 途端に誰かが指さしてこういうだろう。
『主人公気取ってんじゃねーよ』 
 別に主人公気取ってねーよ、と言ってやりたいくらいに僕は主人公キャラではない。まずそもそも見ろ、周りに美少女が一人もいない。そしてここは小さな村でもなければ近未来の教室でもない。ただの屋上である。
 屋上。屋上といえば、物語が交差する異次元スポットとして全国的に有名である。
 普通入れないじゃん、その時点で主人公補正かかってるじゃんと言う声が数多聞こえる。しかし今は先生同伴の元、ただついてきているだけだ。
「あー暑っつい、これじゃあ日に焼けちゃうね」
「そうですねぇ」
 先生は薄汚れた白衣をまとって爽やかな微笑をたたえている。僕は素直に目を細めていた。
「どれどれ今日はどんな感じかなぁ」
 先生はひょいひょいっと跳ねるように近づいていった。そこには天に向かって大きく葉を広げるガジュマルがあった。
「いい感じいい感じ、ほら見てみ? 三ミリ伸びた」
「素晴らしい成長ですね」
「書き留めて」
「今やってます」
 僕はガジュマル成長記録に三ミリ伸びたと記入した後、ピカソも吹き出すような拙い画力でもってガジュマルの姿をスケッチした。
 先生が覗き込む。
「ねぇ、もうちょっと上手くかけないの? これじゃあモスラが一本の糸で吊られてるみたいじゃん。千羽モスラだよこれ」
「僕には画力というものがないんで」
「じゃあ努力しなさい。毎日好きな女の子のデッサンでもしなさい」
「好きな女の子がいません」
「本当に? 高校生なのに? 男子なのに?」
 先生は目を丸くした。そして速やかに何かを悟ったようで、先生は納得がいったように深くうなづいた。
「別にそういうのが悪いとはいわない。先生が悪かった。理解がなかった」
「勘違いも甚だしいですが、僕はホモじゃありませんよ」
「あ、違うの? そういうことじゃないんだ。……違うんだ」
 何故か先生は目を伏せた。やめていただきたいこんなくそ暑い中で。
 僕はある程度書き留めると踵を返して扉の方へと向かった。早く日陰に入りたい。先生も後からついてくる。
「どんな男の子がタイプなの?」
「いや男に興味ありませんって」
「あ、ごめん。女の子」
「健気で一途で面白くていい匂いがしてふわふわしてて僕なしでは生きてけなくて適度に嫉妬して少し抜けてて髪は黒くて長くて声が可愛い女の子がタイプです」
 僕は階段を降り切ると、そのまま部室の方へと向かった。先生が横に並んできた。
「贅沢だねぇ。それ探し当てるの難しいんじゃないの?」
「そうなんですよ……。なかなか見つからなくて」
 僕は廊下を歩きながらまたもため息をついた。
「茶道部の部長さんとか、可愛いじゃない?」
「あの人は軽音部の副部長と付き合ってます」
「金曜日担当の図書委員ちゃんは?」
「あの人はメンヘラで有名なんで」
「演劇部の女の子は?」
「あの人は同じ演劇部に二人もロミオを作ってますよ」
「同じクラスの、あの一番頭いい娘は?」
「あの人は……可愛いですけど、もう誰かと付き合ってるでしょう」
 確かにあの人は可愛かった。しかしながら僕には、そこはかとない「誰かの女」臭が感じ取れてならない。きっとそのカレシにしか見せないとっておきのスペシャルな笑顔が彼女にはあるはずだ。
 考えたらひどく腹がたってきた。
「情けないなぁ、ぐいぐいいっちゃえばいいのに。減るもんじゃなし」
「今のご時世、どんな形でセクハラと訴えれれてもおかしくはありません。僕は遠慮しておきます」
「そんなんじゃいつまで経っても彼女なんかできないよ」
「わかってます」
 財布の小銭入れから部室の鍵を取り出して開け、錆びついた本棚の中からガジュマルファイルを取り出し、今日の記録をファイリングした。最近つけ始めたガジュマル日記は、徐々に厚さを増していた。
「科学部にも、誰か可愛い女の子が入ってくれるといいんだけどね」
「僕ら男子勢が勧誘しても、同性類友が釣れるだけです」
「アイツが勧誘したらもしかしたらグッと増えるかも」
 扉の端に寄っかかって先生は言った。アイツとは、同じ部のイギリス人ハーフの奴のことである。
「アイツはイケメンですけど、中身がキモヲタなんで残念な感じになります」
「そうかなぁ」
「仮に釣れたとしても、こんな部活じゃすぐに幽霊化しますよ。先生も先生ですし」
「んなことたあないでしょうよ。先生はこんなにも大人な余裕を醸し出しているというのに」
 全身で大人のアピールをしている先生を、僕はちらと見ずにあしらった。
「はいはい冗談は顔だけにしてください」
「教師に向かって何だその態度は」
「いきなりキャラ変わりましたね」
「あ、やばい」
「?」
「小テストの採点するの忘れてたー。だるー」
「先生。可愛い部員のために、点数かさ増しでお願いします」
「無理かなーニッコリ」
 先生は「ほいじゃあ」と手のひらを見せると、軽やかに部室を去っていった。僕は「お疲れ様です」と返したあと、適当に辺りを片付けて部室を出た。

 退屈な昼休みを終えてからの授業。
この日の僕は非常に弱かった。
 僕は廊下側の座席一番前という何ら面白くもない座席で、化学反応式と南米の農業とYumiとMarkのリア充英会話をひたすら聴き続けた。
 圧倒的受け身。
 やる気は皆無。
 五月病とはこのことか。
 午後から雲が多くなり、帰る頃にはしとしとと雨が降り始め、僕は暗澹たる気持ちになっていた。
 ゴールデンウィーク明けということもあり、気だるさは最高潮に達していた。意識は朦朧とし、信号が赤なのか青なのか七色なのか、よくわからなくなっていた。
 通行人はみなYumiとMarkに見える。高架下の落書きが、うっかりするとトリニトロトルエンに見える。道に生えている雑草がアルファルファに見える。この世がワイドコンバージョンレンズのように歪んでいた。
 白目によだれを垂らしながら僕はバスに乗り込み、そのまま知らず知らずのうちに海へとやってきた。
 本降りになって傘の必要性が増してきた。近くにあったセブンイレブンでビニール傘を購入し、ふらふらと歩きながら浜辺へと降り立った。
 ベンチには誰も居なかった。
 座り込んで一息つくと、どっと疲れが押し寄せてきた。一体何をやっているのだろうか。僕は主人公でもなんでもないのだから、さっさと家に帰って明日の宿題を終わらせなければならない。
「彼女ほしい」
 こんな時、ライトノベルのような運命的な出会いがあってほしかった。すべてを吹き飛ばしてくれるような事件が起きてほしかった。
 しかし何もないし、望んでもいない。
 そう望んでもいないのだ。
 僕は普通のありがたさをわかっているつもりだった。主人公は主人公になりたがるが、僕は別に主人公になりたいわけではない。そんな図々しいことは思っちゃいない。
 疑っているな疑っているな!
 僕だって何かの主人公になりたいとは思う。しかし仮に何かの主人公になったとして、その責任を果たせるか。
 否。
 僕は主人公になるための度胸もない。人に激昂できるほど熱い魂を持っているわけでもない。女の子に気を使うこともできない。かといってニヒル気取って友達を遠ざけることもない。すべてがうまい具合にいっている。僕が小学生中学生で身につけてきた他人との関わり方、事象との関わり方がこれまたうまーいこと距離を保っていてすごく居心地がいい。
 だから何も望んでいない。
 ごめん嘘。
 いや与えられたらなんとかするかもしれないけど、僕はしがない一高校生だ。童貞無双の男子高校生だ。何も出来ない。何もしたくない。このままこの雨に打たれ続けながらツイッターで友人と絡みながらのほほほほほんと過ごしたい。ああ、なんだかスタバでキャラメルフラペチーノ飲みたい。ドヤりたい。
 ボスッ。
 頭上から巻物が落ちてきた。
 僕は思わず「まきものっ」と叫んだ。本当は痛いと言うつもりだったのだが、眠気のせいで判断が鈍った。ていうかまきものって咄嗟に叫べるのだなと、僕は感動しかけた。
「どうもー。五月少女ですー」
 振り返れば、なんかとんでもないことが起きていた。

 冷静に考えてみると、僕は本当に、本当に何をしていたのやら。
 雨に打たれながら物憂げな浜辺を眺める? なにそれかっこいい。ただしイケメンに限るっていう定番の流れ。この感じ。また誰かに主人公気取ってるキモーいと言われるやつではないか。これだから彼女もできない。素直にスタバに行こう。キャラメルフラペチーノを飲みたいという、その本能にしたがってみよう。
 バス停でバスを待ちながら僕は、腕時計を見て時刻を確かめた。三分遅れている。無論、バスの方が。
「どこに行くんですか?」
 隣の女の子が話しかけてきた。そういえばさっきも芸人みたいな挨拶をして登場してたなこの娘。
 普段ならば適当にあしらう僕だが、いかんせんかわゆいので調子を合わせることにする。
「スタバです」
「タリーズではなく?」
「タリーズ処女がまだ疼くんです」
「童貞のくせにですか?」
「貴方なんなんですか?」
 辛辣な言葉は僕を一瞬で目覚めさせた。なんだこの娘、人の繊細なところ土足で踏み込みやがって。
 黒髪でサイドテールで二重で目が透き通っててぷにぷにしたくなるほっぺたで、ピンク色の唇で肌が白くて両手に程良く収まるくらいの形のいいおっぱいで、抱きしめたくなるような腰に頬ずりしたくなるような脚を見せつけている美少女だからって言って調子に乗るんじゃあない。
「私は五月少女です」
「五月少女ってなんですか?」
「重篤な五月病患者を励ます美少女です」
 自発的美少女発言はスルーの方向で。
「いいっすねそれ」
 僕はバスが来たので小銭の準備をしながら適当に言った。
「でしょう?」
 しかしバスの扉が開いて整理券を取り、僕がよっこらせと後部座席に腰を下ろした後、あることに気がついた。
「……つまり僕は重篤な五月病患者であるってことですか?」
 何の迷いもなく隣に座った彼女は、見るものを虜にしてしまうくらいの明るい笑顔で首を傾けた。
「そういうことになります」
「そ、そうですか」
 バスはエンジンを震わせながら、都市高速へと向かっていった。

 ところ変わって天神地下街のスタバに立ち寄った僕は、いつものようにショートとスモールを間違えて注文し、赤っ恥のなか着席した。
「毎回間違えるんだが」
「それはそれは間が抜けていますね」
 当然のように僕の前に座った五月少女は素知らぬ顔でスマホをいじくっていた。
「重篤な五月病患者を励ますというのが、貴方の役目なんですよね」
「はい、そのとおりです」
「では、励ましてください」
「ファイトーゥ、オッ」
 スマホから目を話さず、左手の甲だけちょいと下げた。
「……え、それだけですか?」
「今ちょっと立て込んでて」
「あ、すいません」
 僕は鼻を少し掻いた後、手で膝をこすった。それから手持ち無沙汰になったのでツイッターを開き、スタバなうとつぶやいてタイムラインを見た。
 しばらくすると、鴨があなたのツイートをお気に入りに登録しましたという通知が来て、僕はそのままスマホの画面を切った。
 眼の前の彼女はアプリか何かに夢中のようだ。身なりは普通の女の子に見える。五月少女と言ったか。本名はなんて言うんだろうか。ていうかそもそも冷静に考えて、彼女は何者なのだ?
 そういえば直前に巻物が落ちてきたような。僕はカバンの中を漁ってみた。あれ拾ったかなぁと内心不安になったが、ちゃんと入っていた。巻物にはメッセージが書かれていた。
「これが見えるということは、貴方は重篤な五月病患者です。直ちに五月少女と交流を深め、人生を再起させてください。よりよい明日を」
 面白そうな文面。きっとこれは、何か物語が始まるトリガーである。
 しかし考えよう。現実はそう甘くない。
 今までがそうだ。
 例えばギャルゲーのように何もしなくても美少女が寄ってきたことがあったか? ないな。
 ラノベのように傾いた部活動を立て直し、可愛い部員が家にお邪魔してきて風呂場で脱衣途中を目撃しキャー的な展開があったか? ないな。
 アニメのように突然大切な肉親を殺され、復讐心の赴くまま、目の前の超巨大戦闘兵器に乗って血の涙を流しながら戦ったことがあったか? ないな。
 世の中、割とないことだらけだ。あるのはそれ相応の行動を起こした人間か、努力した人間か、あるいは高学歴かイケメンかのどれかだ。生憎僕はそのどれにもあてはまらない。
 卑屈になるのはよくないとは言うものの、やっぱりそうなってしまうのが性というものだ。帰ったら漫画見て宿題を片付けて寝る。これが僕にお似合いのライフサイクルである。
 キャラメルフラペチーノを一口飲んだ。やはり美味いなと静かにうなずいた。
「さて、これからどうしましょうか」
 彼女はスマホをしまうと、頬杖をついて僕を覗き込んだ。
「どうしますかというと?」
「五月少女として、貴方を励まさねばなりません。肉欲的なこと以外で、何か貴方を励ます術はないでしょうか?」
「エロはなしってことですか」
「ないですね」
 先手を打たれてしまっては致し方ない。酒池肉林の夜は僕の幻と消えた。
「あの、一ついいですか?」
「なんでしょう?」
「これは新手の美人局とかではないですよね。もしくは出会い系とか。会話するごとに一万円とか請求されたりして」
「そんなまさか。私はそんなサクラな女じゃありませんよ。安心してください、サクラフェイカーなんかじゃありません。信じてください」
「良かった良かった。そうだったらと思うと気が気でなりませんでしたよ」
 僕はキャラメルフラペチーノを飲むフリをした。信じてくださいと言ったので、僕は全力で彼女を疑うことにした。スタバから出たら、なるべく真っ直ぐ、早く帰ろう。美人局によってただでさえ残念なルックスがボコボコになり、財布もすっからかんになってしまっては、もう泣き寝入りするしかなくなる。
「うーん、どうやって励ましましょうかねぇ」
「どうしますかねぇ」
 僕は適当にはぐらかしておいた。そしてあることに気づいて内心、舌打ちした。これ(キャラメルフラペチーノ)お持ち帰りすればよかったなと。
 ていうか、そうするか。
 僕はおもむろに席を立った。さっさと帰って安全をはかろう。
「どうしたんですか? まだ飲みきっていないじゃないですか」
「僕はちょっと用事を思い出したので、帰ります」
「そうですか。では私も」
 そう言って彼女も席を立った。ポシェットを肩にかけた彼女はいつでも出発オッケーのような面持ちでトレイを片付ける僕を待った。
「あ、いや、その大丈夫ですよ」
「なにがです?」
「えっと、五月病患者がうんたらかんたらってやつです。僕はもう平気なので。そういうの、間に合ってますんで」
「何を寝ぼけたことを。全然間に合ってないじゃないですか。大遅刻ですよ」
「は?」
「え?」
 大遅刻の意味がわからなかった。
「と、とりあえず今日のところは失礼します」
 僕は早足でスタバを後にした。彼女を振り切るように全力で闊歩した。
「ちょ、ちょ。待ってくださいよー」
 後ろの方で声が聞こえるが気にしない。さっさと巻いて逃げよう。僕は途中で左に曲がると、的はずれだったが女性物の洋服屋に隠れた。ケバい店員が怪しそうにこちらを見ていた。
 僕は気にせず彼女の様子をうかがった。案の定すぐに彼女は現れたが、すぐに見失ったことに気づいて辺りをきょろきょろし始めた。
 よしよし気がついていない。僕は不敵な笑みを浮かべた。
 一方で彼女の顔はみるみるうちに悲壮感が漂ってきた。まるで迷子になった仔犬のようだ。
「あれ……あれぇ……どこ行っちゃったのかなぁ……」
 眉毛がハの字になり、どことなく瞳がうるんでいるように見えた。途端になぜか僕の良心が責め立てられるのがわかった。お前女の子を泣かせたな。
 いや違うって。僕は当然のことをしてるだけだって。
 小動物のように辺りを何度も何度も確認し、歩いては戻ってきて歩いては戻ってきてを繰り返していた。しかし何故か僕のそばを起点としているようで、一向に抜け出せる気配がない。
 というかめちゃくちゃ罪悪感に苛まれているのだが。
 今にも泣きそうな顔をして、おろおろと右往左往している姿は、僕の中の柔らかい場所をしつこく締め付けてきた。まもなく五月少女は僕の隠れている店内に足を踏み入れたので、僕は入れ違いにさっと店内から脱出し、早歩きで地上に出た。
 賭けに出よう。
 僕はちょうどやってきた博多駅行きのバスに乗り込んだ。このままスムーズに発車してくれれば、彼女とはオサラバできる。
 目論見は成功してバスの扉は彼女を乗せることなく閉まった。僕は軽くガッツポーズをとった。後部座席が空いていたのでそこに腰を落ち着けると、ハンカチを取り出してふうと汗をぬぐった。いやいや一時はどうなるかと思った。
 きっと何かアヤシイものが関わっているに違いない。触らぬ女にたたりなし。いつだって美少女の周りにはゴロツキどもがいると相場は決まっている。僕はそんな危険を犯してまで恋愛や肉欲をエクスプローラーすることはしない。
 時計を見て、道路の込具合を見た。あと一時間もすれば、家に帰りついているだろう。僕はカバンからiPod touchを取り出すと、イヤホンを耳にねじ込んで再生ボタンを押した。

 家に帰ると、五月少女が待っていた。
「どうしていなくなるんですかー」
 うわーんと泣きついてくる五月少女を呆然と受け止めた。そんな馬鹿な。
「母さんっ」
 僕は咄嗟に母さんのところへと向かった。晩飯を作っている母さんは顔をあげた。
「どしたん?」
「いや、どしたんもなにも。これ」
 僕は泣きついて離れない五月少女を指さした。彼女の頭からほのかにシャンプーの匂いがした。
「これって何?」
「だからこれ」
「だから何よ」
 母さんは眉間にシワをよせた。明らかに不機嫌になっていた。
 ていうか見えないのか?
「母さん、今僕に何か抱きついてるよね?」
「はあ? 何言ってんのアンタ」
 母さんはもう用はないと思ったのか、晩飯の支度に戻った。僕は黙ってリビングを出て、二階の自分の部屋に戻った。
 カバンを下ろした後、五月少女の肩をぽんぽんと叩いた。彼女は泣きはらした目をこちらに向けて、涙を手で拭った。
「…………」
 しばらく黙って見つめていたが、彼女はそこにいるように見えた。
 僕は彼女に触れてみた。
 確かに彼女はそこにいた。頬はすべすべしているし、黒髪も艷やか。頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じて、口元をほころばせてくれた。髪の先をくるくるした後、肩に手をやって人肌と肉感をしっかり覚えると、ああやっぱりいいなぁと思った。女の子にこうやって生で触れることが未だかつてあっただろうか。僕はもしかして、今とんでもない状況下にあるのではないのか。
「あの……」
「なんでしょう」
「五月少女って他には見えないんですか?」
「重篤な五月病患者にしか見えません」
「そう、ですか」
 僕はそれから何度も何度も考えた。
 これからどうするか。この状況をどうしていくか。
 信じるか、信じないか。
 伸るか、反るか。
 今の所、母さんには見えないということは、本当に彼女は、五月病患者だけにしか見えないらしい。
 そしてそれくらい僕は重篤な五月病患者である、ということだ。
 僕は懐疑的になった。そんなに僕は重篤なのか?
 確かにやる気もなけりゃ、気力もない。気込みもなければ向上心もない。
「ついでに彼女もいない」
「ほっとけ」
 こんな状態の人間なんて、もっと腐るほどいるだろうに。なんで僕が見えるようになってしまったのだ? 巻物も落ちてきたし、僕が主人公になり得た要因は何だ?
『主人公気取ってんじゃねーよ』
 僕はハッとした。また聞こえる。僕の耳にありありとそれは聞こえた。
 どうせ主人公補正で見えるようになったんだろ? お前も所詮、物語の中心にいたがるような主人公気取ってるんだろう? 僕は深い絶望の淵へと立たされた。
 どうしたらいい。
 彼ら彼女らに指さして嘲笑されないようにするにはどうしたらいい。
 何かこう、主人公っぽくない行動をとらねば。
 肯定も否定もせず、アンニュイな感じで。
 アンニュイじゃない。ファジィか。
 ……ファジィに伸るか。
「どうしました?」
「いや、この状況をどうしようかと思いまして」
「どうするも何も、活用しない手はないでしょう」
「それは、まぁそうですけど」
「もっと楽しいことしましょうよ。面白いことでもいいです。とにかく一刻も早く、この憎き五月病を完治させましょう」
「そ、そうですね」
 彼女は気をとり直したのか椅子に座って机に向かい、近くにあった古文のノートを開いて何やら書きだした。
 僕は覗いて見た。”五月病克服プログラム”とそこに書かれていた。
「五月病を克服するには、マイナスな感情を受け入れることのできるプラスな思考が必要になります」
「はい」
「そのためには、我慢していたことをする、嫌なものは避ける、暴れるなどがあります」
「はい。……はい?」
「つまるところ、やりたいことをやりゃあいいんです。そういうことです」
「なるほど」
 ざっくりとした答えが返ってきた。やりたいことをやる、か。
 僕はとりあえず、彼女の言う事を信じてみることにした。野次はすぐさま僕を襲ってきた。ええい煩い、主人公気取ってやろうじゃあないか。

 意気込んでやりたいことをやろうと思い立ったものの、重篤な五月病患者であることをすっかり忘れていた僕は、自分が今やりたいことなどないという真実にたどり着くまでに一晩要した。
 いつの間にか僕の布団に潜り込んでいた五月少女をどかしつつ、そういえば父さんも見えないんだよなと思いながら納豆とスクランブルエッグの香る朝飯を食べた。五月少女は学校に行く直前まで寝ていた。
 家を出て駅に向かう途中で僕は話を切り出した。
「ごめん、やりたいことの話なんだけどさ」
「何か見つかりましたか?」
「それがねぇ、やっぱり何もやりたくないんだわ」
「えっ、昨晩あんなにノリノリだったのに」
「いやあ、僕もひとつやふたつ思いつくかなと思ったんだけど、特にないんだよねこれが」
「そんなあ」
「確かに僕は重篤な五月病なのかもしれない。いやー参った参った」
 爽やかな笑みで僕は五月少女を見た。彼女は不満気に口を尖らせていた。
「それじゃあ私、何のために現れてきたかわからないじゃないですか。存在を否定されたも同然です」
「何もそこまで言ってないよ」
「どうやら本気で励まさないといけないようですね」
「なんか申し訳ない」
「ていうか、そもそも何でそんなにポジティブなんですか? さては貴方、本当は五月病患者じゃないんですね」
「でも僕には君がしっかりと見えるし、巻物もちゃんと持ってる。多分重篤なレベルになると、一周して自分が憂鬱なのかそうじゃないのかもわからなくなるんじゃないかな」
「そんなのってありますか。私はもっと内なる悲痛な叫びを吐き出させて楽にさせるような、そんなドラマちっくな展開を期待していたのですが」
「そういうことはないと思うよ多分」
 僕は坂道を歩きながら、五月の背伸びした青空を見上げた。この坂を登りきればもうじき駅に着く。
「どうしたらよいのでしょう……」
「どうしたもんかねぇ」
 言葉だけ返して何も考えずに、僕は彼女の歩調に合わせておいた。

 学校での彼女は思慮分別があって特筆すべきハプニングもなく穏やかに過ごせた。都合のいいことに隣の席は休みだったので、今日一日だけそこに座らせてもらうことにした。
 休み時間のことである。
「春眠暁を覚えず」
 いつの間にか背後からすっと現れた友人は、今日も変わらない低血圧な様子だった。
「いきなりどしたん」
「いやさ、どうしても漢文は好きになれない。漢字が苦手なのかも」
「それとさっきのやつと一体何の関係があるんだ」
 しかも次はその苦手な漢文の授業だぞ。
「俺が唯一諳んじることのできる、漢文の一節だ。これだけは覚えてる」
「引き出しが少ないことよ」
 かくいう僕も、あとは四字熟語くらいの知識しかないが。
「そんなことよりも俺は、最近キルケゴールにハマっている。俺のことは、斎藤キルケゴールとでも読んでくれ。今度批評本を執筆するよ」
「それ文芸部のペンネームか?」
 彼は文芸部である。次期副部長と名高い。
「そうだ。今までは乙杯尾石というペンネームだったが、もう捨てることにする。そうだちょうどいい、お前にあげよう」
「いらないいらない。第一僕は執筆なんかしないよ」
 それにもらった所で、エロゲーシナリオライターと勘違いされそうだ。
「お前、創作は青春の友だぞ。こっ恥ずかしいアウトプットを肴にして、おっさんになったら語り合おうじゃないか」
「黒歴史を作りだせというのか」
「ひいては大学受験にも役に立つ。小論文を書く時にも役に立つ。文才はなくとも、文章力を磨いておくことに損はないから、何か書いてみたらどうだ」
「うーむ」
「ちなみに、俺はお前の文章に興味がある」
「え」
 わが友はこほんと咳払いをすると、背中に隠し持っていた教科書を僕に見せてきた。
「さて本題なんだが、リーディングの訳を見せてくれ頼む」
 絡んで来たのはこれが目的か。

 昼休みになると、僕はニヒルを気取って人気の少ないところへと赴く。ニヒルな僕は友達が少ないから便所飯も厭わない。しかしニヒルな僕はそんなクサイところで母さんの丹精込めた弁当を食うなんてとてもじゃないができない。だからニヒルな僕は仕方なく、今日のぼっちスポットを見つける旅をしては、流浪の時間を消費する。
「で、辿りついたのがここですか」
「そう。我が部室、第三地学準備室」
 部室の鍵は部長が管理していて普段扉の鍵は閉まっているのだが、窓の鍵が壊れているので簡単に施錠解除できる。僕はだいたい週五日くらいここを利用している。
「ほぼ毎日じゃないですか」
「たまには友達と飯を食うこともある」
 ちなみに斎藤キルケゴールだかなんだかは文芸部で食べるのが日課である。
 五月少女は見を乗り出した。
「さて、五月病克服プログラムですけれど、私、妙案を思いつきましたよ」
「おっ。聞かせてほしいな」
「先程のキルケゴール斎藤様の意見を採用して、ズバリ、ショートストーリーを執筆するのです」
「ぼ、僕がSSを書くのか」
 マジか。
「そうです。創作活動は、一種の鬱憤バラシ。ぷろへっしょなるな作家ならともかく、貴方は素人以下のぺーぺー物書きなのですから、どんな動機であっても大丈夫です。誇り高い純文学や商業ベースのエンターテイメント小説などではなく、今回は私小説を書いてみましょう」
「うー……」
「ね?」
「…………嫌」
「は?」
「あ、いや、その……」
 特に反対意見もないから飲み込むしか無いか。
「あのー。私小説って厳密に言うとどういう感じの話になるのかな」
「えーっと……」
 五月少女はしばらく考え倦ねた後、どこからかiPadを取り出していそいそと検索し始めた。ていうかiPad持ってるんだな。
「私小説(ししょうせつ・わたくししょうせつ)は、日本の近代小説に見られた、作者が直接に経験したことがらを素材にして書かれた小説をさす用語である。心境小説と呼ぶこともあるものの、私小説と心境小説は区別されることもある(Wikipediaより)」
「ほほう。心境小説か」
「つまり、なんでもいいってことです」
「なんでもいいわけないでしょう。ファンタジーとか書いたらダメなんじゃない?」
「ファンタジーでも構いませんよ。書きたいんですか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど」
 僕は錆びれた椅子の背もたれにもたれて、どうしようかなと背伸びをした。しかし私小説ときたか。一体何を書けばいいのだ?
「マジレスしますと、自分自身のことについてを小説化するんですよ。それを純文学っぽく、かつ人々を楽しませるエンタメな要素も盛り込んで」
「え、えっ。それかなり難しくない?」
 私小説って、つまるところ自己満足な小説を書けばいいのではないのか?
「そんなことを言ってしまったら先代の私小説作家様に怒られますよ」
「なんでもいいって言ったのは君だろ」
「とにかく書きましょう。さあ書きましょう」
 眼の前にノートパソコンがドンと置かれた。これ部室の備品なんだから大事に扱って欲しいのだが。
「さささ、どうぞどうぞどうぞ」
「……うーん」
 いきなり書けと言われてもな。まずはこういうのってプロットから考えるのではなかろうか。
「確かに」
 彼女は頷いた。
「じゃあどんな起承転結にします? あ、序破急にしちゃいますか?」
「ちょっと待ってな。えーっと、僕自身の物語だろう……」
 考えてみる。
 一日の行動。まず起きて顔洗って飯食って、それから学校行って授業行って友達とだべってまた飯食って、部活がある日は部活をして帰って遊んでまた飯食って、そして風呂入って寝る。
 やばい。何の面白味もない。
「この私小説ってジャンル、めちゃくちゃ文章能力いるんじゃないの?」
「何を言いますか。そこら辺の動物よりも、はるかにドラマちっくな生活をしているじゃないですか」
「僕の生活は動物と比較しないといけないレベルなのか?」
「中には普通にリア充な生活を送ったり、メンヘラな世界に溺れていたり、援助交際でお金を稼いだりしてる高校生だっていますよ」
「そういう味の濃い人生、僕は生きてないから」
「そんな退屈な日常を如何に面白おかしく魅せるかが、作者の腕の見せ所じゃないですか」
「またまたそんな結滞なことをおっしゃる」
 僕は物書きじゃないんだから、そんなこと言われてもわからないぞ。
「じゃあ仕方ないですね。私がちょいとばかりサポートしましょう」
「た、助かる」
「ついてきてください」
 彼女はすっと立ち上がると、すたすたと部室を後にした。僕はどうなるのか気になって後を追った。
 向かった先は、屋上だった。
「鍵開いてないよ、先生の許可もらわなきゃ」
 彼女はやすやすと屋上の扉を開いた。
「えー開いた……」
 僕はなんで開いてたのか首をかしげながらも、彼女の背中を追った。
 と。
 そこに一人の男がいた。
「やあ」
 振り向いた彼は朗らかに挨拶をした。染み出る微笑の前歯が白い。こんなに爽やかなイケメン久しぶりに見た。
 同じ制服を着ているので同じ学校だよな。それにしても見かけない顔だった。
 ていうか屋上で何してるんだ?
「ボクはガジュマル。先生に育てられている、あのガジュマルだよ」
「ガジュマル……え、がじゅまる?」
 僕は目を疑った。これがガジュマルだと。冗談も休み休み言え。全くいきなり何をいいだすのやら。
「本当ですよ彼は」
 五月少女は彼をフォローした。僕は未だに信じられなかった。
 しかしガジュマルはつかつかと僕の方に歩み寄ると、静かに手を差し出した。
「いつもボクのことを見てくれて、ありがとう。キミには感謝してる」
「あ、え、はい。いえ、どうも」
 僕はしどろもどろになりながらも恐る恐る握手した。ガジュマルの手はひんやりしていた。彼は確かめるように大きく握手をすると、ゆっくりと手を離し、空を見上げた。
「今日もいい天気だね」
「そう、ですね」
「堅苦しくならなくていいよ。ほら、もっとリラックスして」
 ガジュマルは嬉しそうだった。僕に微笑みかけるとぽつぽつと歩き始めた。
「不思議に思ってるでしょ。ボクがガジュマルだなんてさ」
「本当のことを言うと、軽く引いてます」
「そんな。ひどいな」
「ひどいです」
「いや、かぶせなくていいから」
 彼女をたしなめて、僕はガジュマルに話しかけた。
「これは僕の幻ではないのか」
「幻なんかじゃない。現にここにいる。さわってみてご覧よ」
 彼がふいに歩き回るのをやめたので、僕はそっと彼に触れてみた。なるほどそこには血潮の通う人肌があった。
「彼女も同じさ。僕らは決して幻なんかじゃない。君だけが見えて、他の人には見えないだけだ」
「ふむぅ」
 僕はかなり迷ったが、頭の中で否定するもう一人の自分の声を無視することにした。今この時だけは、彼の存在を信じよう。
 なんだか怪しい宗教の教祖みたいだなと僕は思った。

 それからかれこれ三十分くらいか。屋上でガジュマルと喋ったあと、僕は教室に戻っていつものように授業の準備をした。
 ガジュマルとはとりとめもないことばかりを話したが、そもそも植物と話すこと自体初めてだったので、会話というよりもインタビューというか、対談に近い会話になった。
「いいネタができましたね!」
 階段を降りながら五月少女は満面の笑みで言った。僕は彼との絡みを元に、ショートストーリー型私小説を書くべく、プロットの考案にこれからの授業を削った。

 放課後になって今まで考えてきたプロットを改めて見なおしてみると、ショートストーリー型私小説というよりは、珍しい人との対話記事のようなものが出来上がりそうな雰囲気である。
 肩をつつかれたので振り向くと、五月少女が何か話したそうにしていた。
 部室には幸い誰も居なかった。
「小説の方はうまくいきそうですか?」
「これでいいのかどうかわからないけど、プロットは出来上がったよ」
「すばらしい。そんな貴方に五月病克服プログラム第二弾です」
 彼女はババンと効果音を発した。えらい張り切っていた。
「え、まだ僕、小説書いてないんですけど」
「それはそれ、これはこれです」
「そ、そうなんだ」
 彼女はエセKJ法の落書きが残る部室のホワイトボードにきゅっきゅと文字を書き出していった。僕はその書かれた文面を素直に読み上げた。
「気になるあの娘と修羅場ラ・バンバ」
「そのとおり。ここで一発、貴方には男になってもらおうと思います。素敵なリア充の味を堪能してもらうのです」
「修羅場って書いてあるけど」
「特に意味はないです」
 僕は苦笑した。
「それよりも気になるあの娘って誰?」
「それはフフフ、誰でしょうねえ」
 彼女はニヤニヤしながら腕を組んだ。
 すると突然部室の扉が開いた。
「あっ、居た」
 同じクラスの一番成績の良い女の子が僕を見据えていた。僕はあまりに急な展開だったので目ン玉が「?」になった。
「何やってんのこんなところで」
「あ、いや、ちょっと話してて」
「誰と?」
「あっ」
 うっかり本当のことを言ってしまった。彼女に五月少女は見えないんだった。
「……っていうのはれっきとした冗談で、本当はKJ法を使って明日の運勢を占ってたんだよ」
「KJ法って占いに使えたっけ?」
「……新しいKJ法の開発を目論んでいたんだ」
「ふぅん」
 僕は笑いになってない笑顔を彼女に向けた。彼女は扉に寄っかかったままだった。
 しばらく沈黙が流れた後、彼女は切り出した。
「ねぇ早く帰ろうよ」
「えっ……か、帰る?」
「今日、一緒に帰る約束だったでしょう?」
 僕の心は氷のように固まった。 

 氷のように固まったのは初めて女の子と一緒に帰ることになって恥ずかしい死んじゃうというウブな僕の心情描写であるが、それは帰りだして十分もしない間に昇華した。
「…………」
 僕と彼女は黙ったまま、通学路を並んで歩いていた。朝、あれだけ晴れていたにも関わらず、今は空も低く雲が広がっていて、灰色の天候はまさに、今の僕らの状況を表していた。
 僕はてっきり楽しいひとときを過ごせるものばかりだと思っていたが、どうやら違うらしい。
 彼女の顔。笑っていない。曇がかったような表情で、僕は不安を抱いた。
「ごめん」
 僕はこの沈黙がたまらなくなって先陣を切った。
「約束、忘れてて」
「ううん。別に大丈夫」
「そう」
「…………」
 全然大丈夫じゃないよなぁと思いつつ、僕は会話を続けた。
「今日のリーディングさ、難しくなかった? 関係副詞あたりがちょっとよくわかってなくて苦戦したよ」
「うーん、そう? 関係副詞よりも関係代名詞の方が難しくなかったっけ今回」
「そー……だったかな」
「…………」
 ついに僕の会話のストックが底をついた。次、どうやってつなげよう。
 信号が赤に変わって、僕達は立ち止まった。交差点の車と彼女を交互に見つつ、何か話題をと、必死に頭をめぐらせた。
 しかし青に変わっても特に思いつくことができなかった。長い横断歩道を彼女に合わせつつ歩いて、渡った先を左に曲がった。僕の家はこのあとひたすらまっすぐに進むだけなのだが、感覚的に自分の家がものすごく遠いところにあるように思えてならなかった。
 鉛のような空気をまとった僕達は、そのまま500mくらい歩いて止まった。彼女がふいに僕を見た。
「あのさ」
「うん」
「私達、もう終わりにしない?」
「…………」
 僕は唐突にフラレた。付き合ってすらないのに。
「そう、だね?」
「なんで疑問形なの」
「あ、いや……その、いきなりだったからつい」
 彼女は訴えるような目でこちらを見ている。そもそもいつの間に付き合ってることになっていたのだ?
「斎藤くんの気持ち、聞かせてよ」
「えーっと……ファッ!?」
 僕は返事に困ったが、今の言葉に明らかな誤りがあって正直驚いた。
「ファッ、ってちょっと」
「な、なんで斎藤が出てくるの?」
「だって、斎藤くんでしょ?」
 彼女は僕を見ている。まさか僕が斎藤であると言いたいのか。あんなキルケゴールかじり出した青春野郎と一緒にするんじゃあない。ていうか僕が斎藤だと? どこをどういう風にみたらそんな……。
 しかし僕は五月少女の、あの不敵な笑いを思い出した。もしかしてこれ、五月少女の陰謀か?
「僕が斎藤に見えると」
「見える」
「本当に?」
「本当に」
「そっかそっか」
 多分十中八九、彼女は何か催眠術でもかけられたのか、僕と斎藤を間違っているらしい。それにしても斎藤よ、まさかお前と彼女がここまで冷え切った関係だったとはな。
 ていうか斎藤の野郎、彼女と付き合っていたのか!? なんにも知らなかったぞ僕。
「ねぇってば」
 彼女は斎藤の気持ちを聞きたがっている。何が修羅場ラ・バンバだ。少しでも期待した僕がバカだった。
 しかしこれどう返事しよう。引き伸ばした方がいいのか。
 まぁ普通に考えてちょっと待ったと言うべきだろう。結論を出すのは僕ではなく斎藤の役目だ。
 それにしても斎藤め、よくもこんな可愛い彼女の存在を僕に知らせなかったな。
 僕は深呼吸すると、心の中で斎藤の仮面をかぶった。今から俺は斎藤だ。
「俺はこの関係を終わらせる気はない」
「私は終わらせたい」
 彼女は冷静だった。もうこの時点で、何を言ってもダメなような気がした。
「俺は君のことを愛してる」
 自分で言って吹き出しそうになるのを必死にこらえた。なーにが愛してるだ。よくそんな言葉が口をついて出たもんだ。
 彼女はしばらく黙りこくっていた。まさかとは思うが、思い直している? さっき終わらせたいってキッパリ言い切っていたじゃないか、どうした。さっさと諦めた方がいいぞ、ついで僕に乗り換えたほうがいいぞと思いながら、僕は引き伸ばすことにした。
「今までの言動に何か不快に思うことをしてしまったのなら謝る。俺が悪かった。今度からは君をそっけなく扱うことはしない。なぜなら俺は君のことが大好きだから!」
 芸人のコントだなと僕は思った。なぜならとか口語じゃ言わないだろう普通。僕は首筋をポリポリと掻いた。いや突っ込むところはそこじゃないか。
「ハァ」
 彼女はため息をついた。これは……試合終了の合図かもしれん。すまん斎藤よ、彼女を引き止めることは出来なかった。お前らの愛はここではかなく凍りついてしまうのだ。そういう運命だったのだ。
 と。
 ふいに抱きつかれる感触があった。
「……っ」
 んんんんん? 一体どうしたんだ?
「やっと聞けた……斎藤くんの気持ち」
 抱きついてきた彼女の肩に僕はぎこちなく手を添えると、あまりの豹変ぶりにしばらくの時間を要した。
「だって全然言ってくれないんだもん。愛に言葉なんていらない、とかなんとか言っちゃってさ。そんなんじゃわからないよ」
 斎藤よ、愛に言葉なんていらないなんてマジで言ったのかお前。憤りを超えて僕はその的はずれなポリシーに拍手を送るよ。ナイスKY。
「俺より先に寝るなとかいつも綺麗でいろとか三歩下がってついて来いとか。どうしてそんな無茶苦茶なこと言うの?」
 関白宣言か。さすがです斎藤キルケゴール先生。ところでお二人は、どちらから交際を申し込んだのですか? ラジオネーム五月青年さんからのお便りです。
「あの頃の斎藤くんはどこにいっちゃたの?」
 いやいやいやどこに行っちゃったも何も、そもそも貴方が抱きついているのは斎藤くんではなくて非リアの喪男なんだよ。しかも美少女の幻覚が見える重篤な五月病スペック実装済み。
 しまいにはわあわあと泣き出した。僕は彼女の頭をなでながら、通りすがる人達に会釈しつつ、彼女が落ち着くまでひたすら待った。そして泣き止んで目を赤くした彼女にキャラメルフラペチーノのを与えて僕達は別れた。一体何だったんだろうか。よくわからない。とりあえず、二人の世界は他人が覗いても理解不能なのだなというのがわかった。
 自販機で普段買わない水を買って飲み、僕は斎藤に会った時、キャラメルフラペチーノ代とこの水の値段の十倍の金額を請求しようと心に決めた。

 家に帰ろうとすると持っていた端末に着信が入った。出ると五月少女からだった。
「今から言うところにきてくださいな」
 たどり着いた所はカラオケボックスだった。
 個室に入ると五月少女は寝転がっていた。そして僕を見るなり飛び起きて、目をキラキラさせて訊いてきた。
「どうでしたどうでした? いい経験できたでしょう」
「よくわからなかったけど、とりあえず疲れた……」
 僕は制服のボタンを一つ開け、襟をつまんで扇いだ。クーラーが効いていて涼しい。飲み物何か頼みます? と彼女が訊いてきたので、カルピスソーダを注文した。
「これでまた一つ、ネタが増えましたね」
「ネタ? ああ、私小説の。あ、あれってそういう意図だったの?」
「まぁそうとも言えますね。私は単純に、貴方の五月病を完治させるべく、励ましの行動をとったつもりですが」
「もう全然励ましになってないけどね。むしろ励ましたよねあの娘を」
「励ましに来ましたって言って、四六時中チアガールのコスプレして頑張れーって応援するとかそんなんじゃ興ざめでしょう。私は多角的な戦略で貴方の五月病と向き合っているのですよ」
 ものは言いようだな。
「それで、今度は何が始まるの?」
「何も始まりませんよ。強いて言うなら、カラオケでストレス発散ですかね」
「おっ、今回は割とベタな感じで」
「そうですね。今までが少しイレギュラーだったので」
「いやかなりイレギュラーだったよ」
 テレビにはプロモーション映像が流れていて、アーティストが自己紹介をし始めていた。
 僕は気になるあの娘が斎藤の彼女であることをネタに、五月少女と話し合った。
 いつ告白したのか、どんな感じのデートをしているのか、ABCはどこまで済んでいるのか、馴れ初めは何なのか、いつごろから倦怠期になったのか、彼女はメンヘラなのか。あーでもないこーでもないことをつらつらと喋りあっていると、注文していたカルピスソーダが運ばれてきた。
 ちょうど喉が乾いていたので一気に飲み干そうとしたが、そういえば炭酸だったので半分くらいで止めておいた。
「ふぅ」
「曲入れちゃっていいですよ」
 送信機を渡された。しかし僕は受け取るとそのままテーブルに置いた。
「僕はいいや」
「えーどうしてですか? これも五月病治療のための一環ですよ?」
「僕はそんなにカラオケ好きじゃないから」
「そうなんですか?」
「歌える曲も少ないし」
「惜しい!」
「代わりに歌ってくれて全然いいよ」
「本当ですか? じゃあお言葉に甘えて」
 ポチポチと画面をタッチして、五月少女はマイクを持った。しばらくするとスピーカーから音楽が流れだし、彼女はゆるやかに歌い出した。これがなかなか上手で、僕はしばらく聞き入った。
 一曲歌い終えると彼女は満足気にマイクを置いた。僕が掛け値なしの惜しみない拍手を送ると、まんざらでもない様子で彼女ははにかんだ。
「前々から歌いたかった曲です」
「めっちゃくちゃ上手いじゃない。僕初めて君のこと見直したよ」
「それどういう意味です?」
「ニコ動で歌い手デビューしてみたらどう。きっとすぐにファンもつくと思うよ」
「そ、そうですかねぇ」
 あからさまに照れていた。
「歌上手いの羨ましいなぁ」
「歌っちゃいましょうよ、せっかくなんだし。どうせ私しか聞いていないんですから! ここは一発、すっきりするような疾走感のある曲とか。ほい」
「疾走感のある曲ねぇ……って、えっ。何勝手に入れちゃってんの」
 曲が流れだし僕は慌ててマイクを手にとった。幸い知っている曲だったので歌うことはできた。久しぶりに声を出して、しかも拡声されて歌うということをした気がする。五月少女はノリノリでタンバリンを鳴らしていた。
 歌い終えると指笛で出迎えてくれた。大げさだなと僕は思ったが悪い気はしなかった。むしろすっきり感。
「好きじゃないとか言いながら、結構お上手じゃないですか」
「またまた。口が達者なんだから」
「いやいやそんなことないですよ。カラオケなんてね、楽しんだもの勝ちなんですから」
 いつの間に頼んだのか、今度はフライドポテトの盛り合わせとりんごジュースが運ばれてきた。どうぞどうぞと彼女に勧められたので、僕もいただくことにした。うん、美味い。カルピスソーダが進む。
「なんで好きじゃないんですか? カラオケ」
 彼女はもごもごしながら訊いてきた。
「やっぱり恥ずかしいからかなぁ。そんなに上手いわけじゃないし」
「だから、カラオケは上手い下手関係ないですってば」
「それでも抵抗が」
「彼女出来てカラオケ行こうとか言われたらどうするんです?」
「その時は……なんとかする」
「彼女に歌声披露する方がよっぽど恥ずかしくないですか? 普段から練習しといたほうがいいですよ」
「行く相手がいない」
「斎藤夫妻がいるじゃないですか」
「あのカップルと行けって言うのか」
 僕、完全にお邪魔虫だろ。
「二人がいちゃついている間にバンバン歌えばいいんですよ」
「それじゃ意味なくない?」
「確かに」
 彼女は豪快にりんごジュースを飲んだ。ぷはっと吐いた息は見ているこちらも気持ちよくなる。
「でも普段から恥をかくというか、傷つく練習というか防御対策をしといた方がいいですよ。なんかの漫画で読みましたけど、”非難”訓練は大事です」
「あ、それ僕も呼んだことある」
「カラオケに行って恥を耐えつつ歌うのも、気になるあの娘に絡んでみるのも、植物と会話するのも、人生の醍醐味です。せっかく人間として生まれたのなら、文化の高い生き方をしたほうがいいですよ」
「そうねぇ」
「そしたら五月病にかかることもなくなります。退屈な日常をどうやって切り抜けるか。それはバイオレンスとかセックスとかそういう一次的でリスクを伴う反社会的なもので潰す方法以外にも色々あります。笑いのネタとして話のつまみになるようなことをする方が建設的です。学生のうちは、くだらないことをいっぱいしましょう」
「語るね」
「五月病治療の一環です。貴方に早く元気になってもらわないと、私の名が廃れます。というわけで、次行きましょう。あっ次、私だった」
 そうしてまた音楽が流れだした。テクノポップのズンズン響く感じが心地いい。五月少女は元気よく歌い、僕はその元気に触発されながら、この曲いいなぁと思い、タイトルとアーティスト名をこっそりメモしておいた。
 今度カラオケに行った時歌ってみよう。僕はそう思いながらカルピスソーダを飲み干した。
 その直後である。
 カバンの中に入っていた巻物が、音を立てて消え去った。
 僕は何も言えず驚くだけ驚いた。
 気がつけばそこはカラオケボックスなどではなく、海原の広がる百道浜だった。
 雨に打たれながら僕は、ベンチに寝転がっていた。

 僕はしばらく雨に打たれ続けた後、近くに転がっていたビニール傘を拾ってとぼとぼとバス停へと向かった。
 どうやら夢から覚めたらしい。
 僕は慌てて日付を確認した。日付は昨日へと戻っていた。
「あれは夢だったのか」
 信じられない気持ちでいっぱいだった。しかしよくよく考えてみればおかしな話だった。
 五月少女なる美少女が現れて、その子は僕にしか見えなくて、しかも僕を励ますために、ガジュマルを擬人化させ、友達とその彼女との仲を取り持たせ、最後にカラオケでストレス発散させたとか。考えてみれば荒唐無稽な話である。
 僕は力なく笑った。テレビ会館のバス停前で一人、ニヤニヤと乾いた笑いを浮かべるのであった。

 翌日。僕は面倒臭さ百パーセントのテンションで学校へと向かった。
 昨日帰りに買ったCDをiPodで聞きながらアクビを噛み殺す。五月病はまだ抜けきっていないようだ。
 また五月少女が現れて励ましてくれないかなと思ったが、あの巻物をもう持っていない。諦めるしかないか。
 ふと見ると、目の前を斎藤が歩いていた。
 僕はにやりとして斎藤の肩を叩いた。
「彼女にはしっかり愛の言葉をささやいたほうがいいぞ斎藤」
「は?」
「とぼけるんじゃあない。僕は知っている。お前とあの人が、実は付き合ってることくらいな」
 僕があの人の名前を口にすると、斎藤はその場に立ち尽くした。まるで自慰行為を母親に見られた少年のように、わなわなと震え、血の気を引かせていた。
「な、なぜそれを知っている」
「今度から千里眼を持つルサンチマンとでも呼んでくれ」
「ルサンチマン。なぜそれを知っている」
「いや本当にそう呼ぶのはやめてくれ。今のは冗談だ」
「誰にもこのことは教えていなかったのに」
 ムンクの叫びのように腰をくねらせ悶える斎藤を、登校中の生徒たちが冷たい目で見ていた。
「ちなみに今倦怠期であることも、僕は知っている」
「だからなぜだ!」
「それは秘密だ。誰にも言えないんだ、すまないな」
「まさかお前に彼女の存在を知られてしまうなんて」
「まぁまぁそう落ち込むな。おっ、そうだ。今日の帰り、カラオケに行かないか?」
「か、からおけ!? お前が?」
「あの娘も一緒に連れていこう。三人でデートだ。あ、行く途中でキャラメルフラペチーノおごってくれよ。これは絶対だからな」
「いや、えっ、ちょ……えーっ」
 僕は踵を返して軽やかに学校へと向かった。斎藤が腕にすがりついて詳しい説明を求めてくる。僕は適当にはぐらかした。
 今日は昨日と打って変わって晴天である。ガジュマルもきっと五ミリくらい成長していることだろう。
 流れだす曲は変わり、彼女が歌う「五月少女」のイントロが、静かに僕の中で鳴り響いていた。

(完)

  • Author:織田檸檬
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minimable

オシャレなポートフォリオテーマ「Minimable」導入記

こんばんわ! UTworksの和丸です。

この度UTworksのポートフォリオサイトを作ったわけですが、いかがでしょうか。
どうです? おしゃれでしょう? 僕もそう思います(笑) 
決して自画自賛しているわけではなく、前の記事にも書きましたが、このテンプレートは購入したものなのです。
イタリアのデザイナーさんが作ったテンプレートのようで、名をMinimableといいます。
しかしですねぇ、デザインが良いかわりにと言ったらなんですが……

このサイト、作るのに滅茶苦茶苦労しました。

まあ僕らのスキルが低いせいもあるのかもしれませんが……w

というわけで、今回はその導入の奮闘記を箇条書きで残しておこうかと思います。minimableを導入しようとしている方の参考になればこれ幸い。

古い日本語ドキュメントよりも最新の本家ドキュメントをみるべき

基本的に読んでいけばなんとなくお分かりになるかと思います。しかも画像が結構あってそんなに頑張らなくてもいいかと。
ですが、それでもつまづいたところがありましたので、そこを重点的にいくつかざっくりと解説をしていこうと思います。

つまづいたところとその解決法

・まずはmain Templateの属性をもった固定ページを作って、外観から、その固定ページを指定すること
↑これをやらなければJSもCSSもぜんぜん読み込んでくれなかった気がします。うへえ。

・その他の属性の固定ページ(スタッフとか)を用意する

・それぞれの固定ページのスラッグはpage-1のようにpage-(数字)の形にしなければダメ

・メニューの変遷の設定のためには、外観→メニューから固定ページのURLリンクにスラッグを指定。
↑メニューのページ設定で固定ページを選ぶのではなく、固定ページのスラッグを指定することに注意。

・home属性の固定ページへのリンクメニューにはCSS optionでhome-link activeと書く

・homeの円形のメニューは固定ページから。

・プレミアム機能のブログはhomeには表示されない。直近の投稿をshort codeを用いてfull widthに表示させることはできる。

・short codeを使ってアイコンやタブ、レイアウトを組むことが出来る。

・wordpressのディレクトリ(僕らならutworks.info/wordpress/)からサイトURLを移した場合(僕らならutworks.info)、ブログからhomeに戻ることが出来ない。これにはphpを修正する必要がある。

・ヘッダーメニューはテーマのための関数.phpからbloginfo(“wrurl”)をbloginfo(“url”)にかえればOK

・ロゴのリンクはFTPでテーマの中にアクセスして、parts/shared/header/で上記と同じ処理をする。

———————————

さて、どうでしたか。かゆいところに手が届きましたでしょうか。

結局のところ、本家のドキュメントを見る。これにつきます。というか、これしかないです!
最初の導入では日本語で書いてあるドキュメントにしたがって導入を試みたのですがなかなかうまくいかず。同じようにやってみたのですが、これがまたうんともすんとも表示されませんでした。
調べてみたところ、どうやら情報が古かったようで。
なのでもう公式のdocsを頑張って読むことにしたわけなんですね。

今のところ、つまづきポイントはこれくらいです。これらをクリアしたら上手くいきました。
導入で四苦八苦している方、ぜひ参考にしてください。

後日談

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1st

一夜明けのホームページ、完成しました。

みなさんおはようございます。今日も良い天気ですね。
UTworks映像担当、よえみんこと織田檸檬です。はじめましてこんにちは。

なななんと、ついに、ようやく、我々UTworksの公式ホームページが完成いたしました!(拍手喝采)
一夜明けの~とついているのはノリではなく、本当に一夜明けで作ったからです。いやマジでもう疲れました……。
しかしこれでやっとですね、みなさんに見てもらえるスペースが、できたわけですよ。ショールームといった感じでしょうかね。まぁほとんどテンプレのおかげなのですが汗(3000円払った価値はありました)

結構このテンプレ導入には悪戦苦闘しました。日本語のドキュメントがないこともあって中々思うようにいかないこともしばしば。無料版を使おうとして挫折した方もいるのではないでしょうか。
これは有料版のMINIMABLEというテンプレートを使っているのですが、無料版にも通づるところがありそうなので、いずれ導入方法記事を書こうかなと思ったり思わなかったり。

と・に・か・く!
新装開店UTHP、これから充実させていく所存でございますのでよろしくお願いいたします!
初回記事なのでたくさん書いてしまいました。
今回はこの辺で。

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